うつ病とアミノ酸&オメガ3
 

うつ病とアミノ酸&オメガ3

タンパク質(アミノ酸)は骨や筋肉等の原料として知られていますが、脳においても神経伝達物質の原料になっているなど、人の体にとって最も重要なものです。しかし、食いだめができず日々消費されてしまうため、毎日取る必要のある栄養素と言えます。
 

また、脂質については単に脂肪となって太るという面だけでなく、脳の細胞膜を作っている側面があり、これも大切な栄養素です。特にうつ病にはオメガ3系の脂肪酸が効果的と言われています。
この項ではアミノ酸&オメガ3とうつ病の関係を見ていきましょう。

うつ病とアミノ酸

 
 

 タンパク質の役割と必要量

 
タンパク質(アミノ酸)は皮膚、筋肉、骨、血液等の原料の他、食べ物を消化する際の消化酵素の原料にもなっています。そのため、タンパク質(アミノ酸)が不足していると、栄養素を適切に消化吸収することができなくなってしまいます。また、病原菌等をやっつける抗体も、もともとはタンパク質からできているので、不足すると、うつ病を初めとし、さまざまな病気に、かかりやすくなってしまいます。薬を服用した後にその薬が的確に効くような働きもしています。
 
脳について言えば、タンパク質は神経伝達物質の中心的な原料になっていることから、不足すると正常に神経伝達物質が作られないため、神経伝達がスムーズに行われず出来ず、うつ病のような症状が出る可能性があります。
 
このように、私たちにとって最も基本的で重要な栄養素であるタンパク質は、1日に体重1kgあたり1g~1.5g(体重50kgでタンパク質50g~75g)必要と言われていますが、体を良く動かす人、ストレスが高い人、飲酒や喫煙をする人などは標準よりもより多くのタンパク質が必要とされています。しかし食材に含まれるタンパク質の量は、加熱調理等で半分に減ってしまうため、十分な量のタンパク質を毎日摂取することは案外難しいと言えます。
 
その他、タンパク質はアレルギーと関係が深いですが、毎日同じものだけをとっていると、アレルギーを誘発する恐れもあることから、いろいろな種類のタンパク質をバランスよく取ることが大切と言われています。
 

食品名 納豆 豆腐 牛ひれ 豚ひれ 鶏むね
 食品のグラム 1個 1個 半丁 100g 100g 100g
 タンパク質含有量 6g 6g 10g 21g 22g 22g

含有量は概ねの数値です。加熱処理により約半分に低下します。

 

 タンパク質とアミノ酸

 
肉等(動物性タンパク質)や大豆等(植物性タンパク質)をとると、胃で消化酵素によって分解され、アミノ酸等の小さな形になって腸から吸収されます。吸収されたアミノ酸は連結しあって再度タンパク質となって働きます。アミノ酸は、筋肉やホルモン、神経伝達物質の材料となる重要なものであり、基本的には20種類(必須アミノ酸と非必須アミノ酸)で構成されています。特に体内で合成できない必須アミノ酸は、毎日必ず取る必要があります。
 
また、アミノ酸は神経伝達物質や各種ホルモンの原料になることから、体だけでなく脳においても大切なものになります。うつ病の患者さんではトリプトファンやグリシン等、特定のアミノ酸濃度が低い場合が多いとも言われています。

うつ病効果的なアミノ酸

 
 

 抗うつ効果のあるアミノ酸

 
セロトニンは、トリプトファンというアミノ酸から作られ、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミンは、フェニルアラニンやチロシンというアミノ酸から作られるため、これらのアミノ酸には脳内の神経伝達物質の量を素から増やす効果があり、うつ病に効果的であるとされています。
 
アメリカの分子整合精神医学者では、1日に1g~6gのトリプトファン摂取が推奨されていますが、まれにトリプトファンの大量摂取は眠気、血圧上昇等の副作用が現れる場合があり、特に肝機能障害のある人、MAO阻害剤(抗うつ薬)を服用している人、その他の抗うつ薬をふくようしている人、妊婦は、サプリメントなどでのトリプトファンの摂取は避けるべきであると言われています。
 
フェニルアラニンにおいては、1日に500mg~1500mgが推奨されていますが、こちらも副作用として、頭痛、不眠、そわそわ感などが現れる場合があります。肝機能障害のある人、MAO阻害剤(抗うつ薬)を服用している人、その他の抗うつ薬をふくようしている人、妊婦、フェニルケトン尿症の人、統合失調症の人、は摂取を避けるべきと言われています。いずれにしてもすでに治療を受けている方は、主治医への相談が必須です。
 
 

 抗不安効果のあるアミノ酸

 
うつ病の症状としても良く現れる不安ですが、そのメカニズムから考えてみると、そもそも不安とは、ストレスを受けた時に発せられるノルアドレナリンによって引き起こされる感情です。そのため、不安感が強い時にはノルアドレナリンの原料である、フェニルアラニンやチロシンを取り過ぎない事が大切です。
 
その他にも、脳の異常な興奮を抑えるように働くアミノ酸には、グリシン、タウリン、ギャバ、ヒスチジンが知られています。これらのアミノ酸は緊張状態の脳波であるベータ波を減らし、逆にリラックス状態で良く出るアルファ波を増加させる効果があります。
 
緊張状態では、消化機能が衰えるため、ストレスがかかると消化不良を起こしたりしますが、これらのアミノ酸はリラックス状態を保つため、胃液の分泌を促し消化を良くする効果もあります。

 

 必須アミノ酸の種類

 

バリン

筋肉を作ったり、成長を促す作用。不足すると食欲不振の原因になる。

イソロイシン

神経機能の補助役であり、判断力や反射神経の向上等の働きがある。抗ストレス効果。

ロイシン

肝機能の向上。筋肉グリコーゲン合成。酵素活性の促進。抗ストレス効果。

メチオニン

開始アミノ酸(タンパク質をつくる際に一番初めに必要)。肝機能の改善。発毛効果。アレルギーを抑制。過剰なヒスタミンを取り除き、即効性の抗うつ効果がある。

リジン

体の抵抗力を高める。感染症予防。口唇ヘルペスウィルスの予防。育毛効果。

フェニルアラニン

ドーパミンやノルアドレナリンの原料(興奮系の神経伝達物質)。痛みの軽減。

抗うつ薬のイミプラミンと同等の効果があるという報告もある。

トリプトファン

セロトニン(調整系の神経伝達物質)の原料。メラトニン(快眠ホルモン)の原料。成長ホルモンの生成を促す。生卵に約100mg含まれる。血圧コントロール。果物ジュースと一緒に摂取すると脳内に届きやすい。

モーズレー病院の処方ガイドラインには、難知性うつ病に対する第一選択肢として1日2から3gのトリプトファン摂取が推奨されている。

セロトニン症候群と言う副作用を起すことがあるため、注意が必要。

スレオニン

成長に関与。肝脂肪の抑制。胃炎の改善。美肌効果。

ヒスチジン

成長に関与。脳神経の保護。抗不安効果。

 

 非必須アミノ酸の種類

 

アスパラギン

疲労に関与。

アスパラギン酸

疲労回復効果。老廃物の処理。うつ病患者は濃度が低い。ミネラルの吸収を上げる。

アラニン

白血球を増産し免疫力が向上。エネルギーが足りないときにアラニンはブドウ糖に変わるため、低血糖症の症状を和らげる。

アルギニン

血管機能の正常化。成長ホルモンの材料。細胞の新陳代謝の向上。EDの改善。T細胞を増やすため免疫力が上がる。

グリシン

睡眠の質を向上。うつ病患者は濃度が低い。成長ホルモンの生成を促す。

コラーゲンの合成。抗酸化作用。抗不安効果。

グルタミン

疲労回復。胃腸の保護。免疫向上。 抗ストレス効果。

グルタミン酸

疲労回復。GABAの材料(前段階では興奮系の伝達物質)。抗うつ効果。過剰摂取すると神経興奮や幻覚等がみられる場合あり。口から摂取しても血液脳関門を通過できない。

システイン

活性酸素の除去。傷の回復促進。アルコールやタバコなどによって起きた細胞の傷の修復に関わる。

セリン

アセチルコリンの原料。抗不安、抗うつ効果。睡眠の質の向上。肌の潤い保持。

チロシン

ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンの原料。抗うつ、抗不安効果(うつ病の患者は通常より濃度が低い)。慢性疲労症候群の改善。

プロリン

脂肪の減少に関与

 

 アミノ酸の必要量

 
WHO/FAO/UNU(2007年発表)によると、体重60kgの人の1日のアミノ酸必要量は以下の通りになります。
 

ヒスチジン 600 フェニルアラニン+チロシン 1500
イソロイシン 1200 スレオニン 900 
ロイシン 2340 トリプトファン 2400 
リジン 1800 バリン 1560 
メチオニン+システイン  900    

単位:mg

 

 動物性タンパク質と植物性タンパク質

 
アミノ酸から新たなタンパク質が作られる時、大切な働きを担っているメチオニンという必須アミノ酸があります。すべてのタンパク質合成の初期に必要なもので、これは植物性タンパク質よりも動物性タンパク質に多く含まれています。
 
また、うつ病とも関連の深い、調整系の神経伝達物質であるセロトニンや、快眠のために必要なメラトニンはトリプトファンから作られますが、これも動物性のタンパク質に多く含まれています。
 
その他、必須アミノ酸がバランスよく含まれているかどうかの指針に「アミノ酸スコア」がありますが、動物性タンパク質はこのスコアも高いものが多い傾向にあります。言い換えると、植物性タンパク質の中には、必須アミノ酸の一部が含まれていないものもあるという事です(アミノ酸スコアが低い)。
 
植物性タンパク質はカロリーが低い傾向にありますが、上記を考慮すると、動物性タンパク質のほうが高率が良く、より重要であると思われます。
基本的には動物性タンパク質を中心としてとりながら、同時に植物性のタンパク質もとるようにすると良いでしょう。
 
 

アミノ酸スコア 

 

動物性

 豚肉100、鶏肉100、卵100、あじ100、鮭100、牛肉92

植物性

豆腐93、枝豆92、大豆86、ブロッコリー80、ジャガイモ68、ほうれん草50

うつ病に効果的なオメガ3

 
 

 脂質の役割と必要量

 
脂質は、大切なエネルギー源であり、必要に応じて蓄えられた脂肪が分解されエネルギーとなります。その他にも細胞膜やホルモンの原料になったり、脂溶性ビタミンを体に吸収しやすくする働きもしています。
 
脳の中においても神経細胞などの膜を作ったり、軸索という神経細胞が伸びた部分を厚い膜で包み込み、電気信号が外部に漏れないようにする働きをしています。これらの働きにより、脳の中の神経伝達がスムーズに行われるようになるのです。脳の60%が脂肪で出来ていることを考えれば、私たちにとって脂質はとても大切な栄養素と言えるでしょう。もちろんうつ病とも関連が深いと言えます。
 
脂質は1日の内に50g程度が適正量であると言われており、サンマなら2匹、牛バラ肉なら100g程度と相当します。ただ、現代の食生活での不足はほぼないと思われ、一般的に逆に取りすぎによる悪影響の方が多いと思います。

 

 うつ病とオメガ3

 
脂質を構成する成分の脂肪酸にはいくつかの種類に分類されます。まず、常温で固まる飽和脂肪酸と、常温では固まらない不飽和脂肪酸に分けることができます。そして不飽和脂肪酸は一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸に分類されます。
 
一価不飽和脂肪酸はオメガ9系脂肪酸で、オリーブ油等に含まれるオレイン酸が有名です。悪玉コレステロール(LDL)の数値を下げ、動脈硬化、うつ病、胃潰瘍等に効果的と言われています。
 
一方、多価不飽和脂肪酸はオメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸に分けることができます。
 
オメガ6はひまわり油などの植物油に含まれるリノール酸が代表的で、細胞膜を作ったり悪玉コレステロールを減らす働きがありますが、取りすぎると、善玉コレステロール(HDL)も減らし、血栓が出来やすくなったり、炎症を促進しアレルギーなどの自己免疫疾患の発症や悪化を招くことがあるので、注意が必要です。
 
オメガ3は魚の油などに含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)などや、なたね油などに含まれるアルファリノレン酸が有名で、善玉コレステロールを増やし、逆に中性脂肪を減らし、血栓ができるのを防いだりしています。
 
オメガ3で出来た受容体は、柔軟性にすぐれ、形をうまく変えられるので、神経伝達物質をはじめ、ビタミンやホルモンをうまくキャッチすることができるのです。また、慢性炎症の改善にも効果があります。
 
魚をよく食べる地域のうつ病発症率は他の地域に比べて低いと言う報告もあり、オメガ3の摂取は、欧米ではうつ病の治療ガイドラインにも記載されているほど、抗うつ効果は高いとされています。統合失調症の発症予防や、進行の防止にも効果があると言われています。
 
 

 うつ病に効果的なDHAとEPA

 
オメガ3の中でもDHAやEPAは特に有名ですが、EPAが脳内に入り込めないのに対し、DHAは血液脳関門を通過しやすい性質があるため、DHAの方がより効果的であると言われていますが、DHAとEPAは、同時に摂取したほうが、より高い相乗効果が期待できます。
 
オメガ3は、内因性のうつ病以外にも、新型うつ病などと言われる薬の効きにくい、非定型うつ病にも効果があると報告されています。その他にも、難治性うつ病、摂食障害、人格障害、月経前症候群等にも効果的と言われています。
 
現在の一般的な食生活では、オメガ6が過剰で、オメガ3が不足している状態になりやすいため、オメガ6の摂取を控え同時にオメガ3を多く取るようにすると良いでしょう。
 
毎日魚を食べるのは以外に難しいものですが、最近ではサプリメントなどで手軽に取れるようになってきています。ただ、非常に酸化しやすい栄養素であり、酸化したものは体内で活性酸素を作ってしまうもとになったりするため、ビタミンEを配合するなどして酸化させない工夫を施したサプリメントを選ぶ必要があります。DHAやEPAなど、オメガ3サプリメントに関しては、オメガ3サプリ というサイトが役に立ちます。
 

うつ病とオメガ3
 
 

 トランス型脂肪酸

 
不飽和脂肪酸に水素を添加して人工的に作った脂肪酸をトランス型脂肪酸と言いいます。マーガリンやポテトチップスなどに多く含まれるこの脂肪酸は、油の劣化を防ぐメリットがありますが、酵素がうまく働かないというデメリットがあります。つまり、摂取しても脂肪酸の役割を果たさないため、トランス脂肪酸は摂取する必要がないと考えられ、1日2g未満に抑えるのが良いとされています。
 
最近では、取りすぎると、善玉コレステロールを減らし悪玉コレステロールを増やす傾向があると言われ、心疾患の発症に関与していると考えられています。
脳においても脂肪酸の役割は重要な部分を占めているため、トランス型脂肪酸を多く含む食品は極力控えることが懸命です。マーガリン30gには約2gのトランス脂肪酸が含まれていると言われています。食品パッケージに「水素添加」の文字がある商品は要注意です。

 

脂肪酸ではありませんが、大豆などに含まれるレシチン(ホスファチジルセリン)もうつ病に効果的であると言われています。
ストレス下ではコルチゾールというストレスホルモンが分泌され体の反応等が起きます。コルチゾールは適量であれば必要なものですが、過剰に分泌されると海馬の死を促す働きがあります。レシチンにはコルチゾールの分泌を抑える効果があるため、脳への悪影響を防止できると考えられています。