海馬萎縮

 

うつ病の海馬萎縮

昔は、脳についてのことは、ほとんどわかっていませんでしたが、近年の脳画像解析の進歩により、さまざまな発見がありました。
 
これまでうつ病は、脳の器質的な異常は無いとされてきましたが、MRIによるうつ病患者の脳の萎縮が多数報告されています。
 
この仮説は、脳の中の海馬と言う、主に記憶を司る部位に萎縮が起こることが、うつ病の原因とする説です。海馬萎縮はストレスにより起こると考えられています。

うつ病の海馬萎縮

 
 

 海馬萎縮の概要

 
海馬という記憶や情動をつかさどる脳の部位の萎縮が、うつ病の原因だとする説です。通常、神経細胞は病気でなくても少しずつ死んで行っていますが、それと同じペースで新しく細胞が作られるので、大きさが保たれるようになっています。しかしうつ病の人はそのサイクルに異常があるとする説です。脱毛に似ていますね。生えるペースと抜けるペースが伴わないといった状況と考えるとわかりやすいと思います。
 
 

 海馬萎縮の原因

 
人はストレスを受けると、コルチゾールといわれるホルモンが大量に放出されます。コルチゾール自体は本来、人体に必要なホルモンですが、大量に放出されると、海馬の死を促す作用があるのです。そのため、コルチゾールの値が高いほど海馬萎縮を起す傾向があります。
 
要するに、ストレスにより、コルチゾールがたくさん作られ、それが脳にダメージを与えるというわけです。
 
また、脳由来神経栄養因子(BDNF)や、グリア由来神経栄養因子(GDNF)などの神経細胞の成長に必要な栄養因子がうつ病患者では低下するため、うまく神経が新生しないとも言われます。
 
神経栄養因子の低下は、幼少期に心的外傷体験のある者に、良く見られる傾向と言われており、実際に、幼少期の心的外傷体験のあるうつ病患者と、そうでないうつ病患者の海馬体積を調べたところ、心的外傷体験があるうつ病患者の、左側海馬体積が優位に減少していることがわかり、うつ病になりやすい素因に、幼少期の心的外傷が影響しているとする報告があります。
 
 

 海馬の萎縮を防ぐには?

 
ストレスがコルチゾールの増加に関っているということは、できるだけストレスを減らすことで、海馬の萎縮が防げると言えます。ストレスがうつ病に悪いという理由の1つと言えます。
 
また、それと同時に、脳の自然死も発生しているため、新たに新生するよう、脳が必要としている栄養を十分により、脳や体が働きやすい生活の送り方が必要となります。タバコやアルコール、過度な間食などは、脳の新生に逆行する行為と言えます。
 
 

 抗うつ剤の効き方

 
抗うつ剤にはセロトニン等の、モノアミンの量を正常な状態に保つ働き以外にも、神経栄養因子の産生を助ける作用があり、結果的に神経新生を促す働きをしていると考えられています。
 
神経の新生には一定の時間がかかるため、抗うつ剤の服用後すぐに効果が現れないことに関しても、一応の説明がつきます。