断眠

 

 断眠療法

病気でない人の中にも、徹夜明けにテンションが高くなった経験がある人も多いと思います。断眠により得られる抗うつ効果については古くから知られており、最近も研究が進められています。
 
この治療法は、うつ病の治療法として重篤な副作用も無く、一晩眠らないというシンプルな治療法としではありますが、日本では診療報酬化されていないこともあり、断眠療法を積極的に行う医療機関はあまりありません。
しかし断眠療法の効果は一般的な薬物療法と同等であり、有効率は60%程度と言われ、薬が効かないタイプのうつ病にも効果が期待される治療法と言えます。

断眠療法の概要

 
 

 断眠療法とは?

 
うつ病の人は生体リズムが通常よりも前進しているとの説があり、それを一晩眠らないことで元に戻そうとする治療法を断眠療法といいます。断眠による抗うつ効果のメカニズムは詳しくはわかっていませんが、過剰に機能している脳の一部分を沈静化させたり、神経伝達物質等にも影響を及ぼしていると考えられています。
 
断眠の時間によっていくつかの方法がありますが、その効果が高いとされるものにTSD(一睡もしない)とLPSD(22時頃~2時頃のみ睡眠をとる)があります。特にTSDの方がより効果が高いとする報告もあります。
 
治療とは言っても寝ないで起きているだけで、それ以外に特別なことはしません。通常は、テレビを見たり、誰かと談話したりしてなんとか寝ないで過ごします。援助者がいないと眠ってしまう場合があることや、その治療時間帯等の問題により、断眠療法は基本的に入院での治療が一般的ですが、物理的には自宅で行うことも可能です。

 

 断眠療法が適応となる人

 
断眠療法は、うつ状態の中でも、特に朝と夕方で気分に変化がある者に効果が大きいとされ、軽度から中等度のうつ病に用いられます。また、寝ないという意思が治療に大きく影響するため、治療の意味を理解している人が適用となります。
 
自殺念慮が強かったり、うつが重度の場合は断眠療法は適応となりません。また、妄想が目立つ人、てんかん発作やパニック発作がある人も、発作を誘発する恐れがあること等から断眠療法の適応からは除外されます。

断眠療法の効果や課題

 
 

 断眠療法の効果と副作用

 
夜に断眠を開始し、朝を迎える頃にはすでに抗うつ効果が現れており、昼頃には一番改善するとされています。その有効率は60%程度でうつ病の薬物療法と同等程度であり、薬物療法に反応を示さない治療抵抗性のうつ病にも効果が期待できるとされています。
 
睡眠を断っているわけなので副作用としては眠気や倦怠感がありますが、この治療に反応を示す者ほど、このような副作用が少ない傾向があります。また5%前後の確立で軽いうつ状態の悪化が見られます。その他、双極性障害の場合は、10%で躁転が見られるという報告があります。

 

 断眠療法の課題

 
断眠療法は、薬物療法と同等の効果があると言われながらも、診療点数がつかないため、医療機関では積極的には行われていません。また、効果が見られても、次の日、就寝し目覚めると、うつが戻ってしまう場合が多いとされ抗うつ効果の持続に課題が残ります。
 
本来の意味でうつ病が治ったというわけではないため、良い状態をひとつの足がかりにして治療を継続していく必要があるといえます。実際に、薬物療法との併用や光照射療法との併用で、効果の持続も高くなると言われています。

断眠療法の手順

 
 

1日目( 断眠前日 )

6時に起床し、23時に就寝します(通常の睡眠リズムの例)。

2日目( 断眠開始 )

朝6時に起床し、日中は激しい運動をさけますが概ねいつもどおりに生活します。夜になって断眠の開始です。ゲームをしたり、テレビをみたりして寝ずに過ごします。ふとんに入ると意識の上では寝ていないと思っても、実際には眠ってしまっている場合があるので、上体を起こして家の中など危険のない所で過ごします。少しでも寝てしまうと効果は望めないので、もう寝てください。眠気やだるさを感じる場合がありますがやり過ごします。その他うつの増悪や幻聴等、異変が起きた時は中止して下さい。

3日目( 断眠終了と回復睡眠 )

朝には一定の効果が現れ、昼頃には抗うつ効果が一番高いとされています。またその時間に寝てしまうと効果が薄かったり、抗うつ効果も持続しないと言われているので、まだ断眠を続け同じく危険のない所で過ごします。そして17時になったら就寝します。

4日目( 回復睡眠 )

夜の0時に起床します。眠くても必ず0時に起きます。このことが抗うつ効果を持続させます。起床後は再度寝てしまわないようにして下さい。日中も危険のない所でいつもどおり過ごします。19時になったら就寝します。

5日目( 回復睡眠 )

深夜2時に起床します。4日目同様にすごします。再度寝てはいけません。21時になったら就寝します。

6日目( 回復睡眠 )

早朝4時に起床します。日中はいつもどおり過ごします。そして23時に就寝します。 

7日目( 通常の睡眠 )

6時に起床し、23時に就寝します。1日目の時間に戻りました。明日以降も睡眠リズムを7日目と同様に一定にします。

断眠療法には重篤な副作用はないと言われていますが、双極性障害等の場合は、そう転(うつ状態からそう状態になる)したり、発作性の疾患の場合は発作が現れる可能性があります。また、まだまだ不明なことも多いため、実施の際には必ず医師への相談が必要となります。