修正型電気けいれん療法
 

うつ病の電気や磁気の治療(修正型電気けいれん療法等)

頭部に電流を流す治療法の歴史は古く、精神疾患に対する薬物療法が生まれる以前からあります。最初は電気けいれん療法(ECT)と言われる頭部に通電することによりけいれん発作を起こさせる治療法が行われ、その後より安全に行うため、けいれんを起こさない修正型電気けいれん療法(m-ECT)が開発されました。
 

現在では電磁石から発せられる磁気により、微弱な電流を流す経頭蓋磁気刺激療法(TMS)の研究も行われ、うつ病の治療として認可されています。

修正型電気けいれん療法(m-ECT)

 
 

  修正型電気けいれん療法の概要

 
頭部のこめかみ(前頭葉)の部分に電極をあて電流を流し、脳の神経細胞を刺激する治療法です。修正型電気けいれん療法では、安全に行う為にけいれんを起こさず、全身麻酔や筋弛緩剤の投与を行ってから実施します。
 
修正型電気けいれん療法の治療は、1週間に2~3回実施し、それを8回~15回くりかえします。効果は数回のうちから現れ、即効性がある治療法です。主に入院で行うことが多いですが、再発防止等のため、ある程度の期間ごとに外来で行う場合もあります。修正型電気けいれん療法は、保険診療の範囲で治療が出来ますが、3割負担でも1回の実施に1万円前後かかります。
 
この治療法により、神経伝達物質が正常に出るようになったり、脳の血管が新たに作られたりすることで、うつ病の症状が改善すると言われていますが、実はなぜ効果があるのか詳しいことは未だにわかっていません。
 
 

  修正型電気けいれん療法が適応となる人

 
基本的にうつ病治療の第一選択肢は、薬物療法になることが多いですが、自殺念慮が強く迅速な治療が必要な場合や、さまざまな薬物療法を適切に行っても改善しない場合、または薬の副作用が強く出たり、妊娠中や高齢者などその他の理由で薬物服薬が出来ない場合、以前に修正型電気けいれん療法が効果的であった場合などに適応となります。
 

  修正型電気けいれん療法の効果と副作用

 
内因性うつ病の80%以上に効果があったとする報告もあり、修正型電気けいれん療法は、高い効果が期待できると言われています。実施直後にめまい、吐き気、頭痛、錯乱が起きる場合がありますが、基本的に数時間で消失します。その他、名前や出来事など日常の記憶がなくなる場合(10人に1人前後)がありますが、一般的に長期に続くことは多くないとされ、記憶障害が長期に出た場合でも、治療を終了する頃や、その後に蘇えることもあると言われています。死亡事故(心血管系の合併症等)の重篤な副作用としては5万回に1回前後です。
 
 

  修正型電気けいれん療法の課題

 
うつ病に有効である割合が高い治療法ですが、すべての人が治るわけではありません。また改善し治療を終了した場合でも、その後なにも治療を行わなかった場合は3ヶ月以内に半数以上の人にうつ病の再発が見られたというデータもあり、修正型電気けいれん療法は、再発が高い治療法という考えもあります。そのため、改善がみられ症状がなくなった後も、継続してm-ECTを行ったり、うつ病の薬物療法を行う必要があるとされています。
 
その他、全身麻酔で行う必要があることから、基本的に麻酔医が必要となるため、すべての精神科で行える治療法ではありません。麻酔医がいる総合病院や、麻酔科と精神科の両方を専門としている医師がいる病院等で実施されています。
 
また、電気けいれん療法は、けいれんを伴わない修正型電気けいれん療法になっても記憶障害という副作用があり、人によっては人生の大切な記憶が失われ、それはうつよりも辛いという方もおり、精神科医の中でも修正型電気けいれん療法に関しては、考え方が分かれています。

反復性径頭蓋磁気刺激法(rTMS)

 
 

  反復性径頭蓋磁気刺激法の概要

 
頭部に電磁石をあてその磁気の力で、脳組織内に弱い電流を起こさせ、神経細胞を刺激する治療法です。椅子に座った状態で頭部に専用の器具をあて磁気刺激を送ります。刺激はちょうど低周波治療器具のように、リズムよく「カチッカチッ」とタップされるような感覚で強い痛みはありません。
 
1回の治療は40分前後で、週に 3~5回前後を全部で15回~30回前後くりかえします。修正型電気けいれん療法の際に必要となる麻酔は必要なく、外来での治療が可能です。
 
反復性径頭蓋磁気刺激法により、脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加したり、神経伝達物質であるドパミンやセロトニンの放出を促しているという報告等がありますが、どうしてうつ病に効果があるのか詳しいことはまだわかっていません。
 
 

  反復性径頭蓋磁気刺激法が適応となる人

 
てんかんがある人、ペースメーカーが入っている人、頭部に金属が入っている人、妊娠中の人等は基本的にこの治療は受けられません。てんかんがなくても、脳波の検査で異常がみられた場合にも受けられない場合があります。現在では特にうつ病の薬物療法で効果がない場合等に検討されます。
 
 

  反復性径頭蓋磁気刺激法の効果と副作用

 
効果については、いろいろな報告がありますが、治療抵抗性のうつ病に対して、修正型電気けいれん療法よりは劣るものの、薬物療法と同等の効果があるという報告が多く、一定の効果が期待できます。
 
治療中に磁気を当てている部分あたりに若干の痛み等がありますが、治療中のみで終わります。また、回数を重ねることで痛みは軽減していきます。その他の副作用として、歯や目の痛み、頭痛等が起こる場合がありますが、重度のものではありません。また、けいれん発作の副作用は0.003%以下であり、安全性が高いと言われています。
 
 

  反復性径頭蓋磁気刺激法の課題

 
rTMSは、欧米ではすでに多数実施されていますが、日本ではうつ病の治療としては承認されておりません。そのため、実施できる医療機関はごく少数で、保険診療ではないため、高額な費用もかかります。だいたい1回6万円前後で、それを30回行えば、180万円もかかってしまい、一般的な治療法とは言えません。
 
また、複数の抗うつ薬が効かなかった場合や、修正型電気けいれん療法が効かなかった場合には、この治療も効果が薄いという報告もあり、すべての人に有効であるわけではありません。最新の治療法であるがゆえに、どのくらい効果があるのかという事や安全性に関しても未知数な部分がありますが、うつ病に関しての新しい治療法の1つとして研究が進められています。

rTMSは最新のうつ病の治療法であるため、「治験」という形で実施している医療機関もあります。この場合には費用がかからずに治療を受けることができます。治験は新しい治療を無料で受けられるというメリットがありますが、デメリットとなる可能性の部分も理解した上で受ける必要があります。