
家族のメンタルヘルス
家族の誰かがうつ病になると、それを見守るご家族の気分も沈んでしまうのは、ごく当然のことです。うつ病が治るまでの間には、症状にも波があったり、一定の時間もかかります。そのため、ご家族を初めとした、うつ病を見守る方には常に慢性的なストレスにさらされている状態となります。それらが誘因として、ご家族自身がうつ病を発症してしまうことすらあります。
うつ病の方への接し方を学ぶことはとても重要ですが、それよりも大切なのは、うつ病を見守る家族のメンタルヘルスです。あまり語られることが少ない分野ですが、ここでは、家族のメンタルヘルスについて、掘り下げていきます。
家族の認知を変える
家族の性格
うつ病は、その人の性格だけが原因ではありませんが、ものの捉え方など、いわゆる性格と言う側面は、うつ病の発症にも大きく関与していると考えられています。うつ病になりやすい性格としてよく知られているのは、循環性格、執着性格、メランコリー親和型性格があげられます。
循環性格 | 温厚で親切、かつ社交的である一方で、弱気な面も持つという2面性があり優柔不断なタイプ |
---|---|
執着性格 | 几帳面でキレイ好き、責任感があり、物事に対して徹底的に行う完璧主義なタイプ |
メランコリー親和型性格 | 執着性格の特徴に加えて、小心、気を使う、争いを好まない、秩序を好む等のタイプ |
※ ただし、ここでは内因性うつ病等の一般的なうつ病をさしており、新型うつ病を除きます。新型うつ病は、楽しいことには反応を示すタイプのうつで、ディスチミア親和型性格(自己愛が強く他罰的)の方に多いとされています。
ここで、うつ病の方を見守る、家族自身の性格を考えて見ましょう。ふたごや養子による研究により、親の性格は、子供に約50%程度の割合で遺伝することが分かっています。残りの半分は環境が影響します。
ということは、うつ病を見守る方自身も、うつ病になる可能性があるということです。うつ病になった方と同じような性格であった場合は、さらにその確立は高くなるとも考えられます。
性格を変えることは難しいことですが、自身の性格を自覚することはできます。自覚するという行為は、すでに自分がなりたい性格への第一歩となります。
内因性うつ病になりやすい性格自体は、社会的に見れば好まれるもので、人からの信頼も得られやすい性格と言えます。ただし、今の社会では少々生きずらいのかもしれません。基本的な性格はそのままに、少し肩の力を抜けるようになれると理想的です。それには、物の捉え方、すなわち認知を変えることが大切です。
家族と言う特別な存在
あたりまえのことですが、家族は他人とは違い、特別な存在です。それは、好意的に感じていても、その逆の感情がある場合でも同様です。だからこそ、家族に対する環境や状況の変化は、自分のことのように感じます。
他人がうつ病になってもそこまで感情が入らないのに対し、家族や大切な人がうつ病になると、そのストレスは何倍にもなります。また、時に冷静な判断が出来なくなることさえあります。私の職場の精神科医が「たとえ家族が精神疾患になっても、家族の診察はできない」と話していたことを思い出します。
課題の分離
オーストリア出身の心理学者アルフレッド アドラーは、課題の分離という理論を述べています。課題の分離とは、簡単に言うと、自分の課題と他者の課題を分けて考えるというものです。
物事に対し、それは本来誰の課題であるかを考え、どこまでが自分の課題の範囲か、どこから先が相手の課題かを区別して考えます。そして、相手の課題には干渉せず、自分の課題に対しても同じように、他者に介入させないという考え方です。自分がどう生きていくかは自分の課題、それに対して他人が感じる思いは、他人の課題と割り切る考え方です。
アドラーは1つの例として、勉強しない子と親の関係を基に具体的に説明しています。子供が勉強するかしないかは、子供の課題であり、親が介入するべきではない、親の課題は、その子供を見守り、介入を求められた時にだけ支援することであるとしています。
これは、うつ病の家族をもつ方にも応用ができます。うつ病と向き合うのは、その人自身の課題であり、周りの人は必要以上に介入するべきではない。家族の課題は「見守り」であり、「必要な時だけ対応する」という姿勢と言えます。
必要以上の介入は、逆にうつ病の症状を悪化させるだけでなく、家族自身のメンタルヘルスにも良くありません。
家族がうつ病の正しい知識を得る
正しい知識を得る
例えば、子供がうつ病になった時、親は自分の育て方が悪かったのではないかと、必要以上に思い悩む場合があります。うつ病の原因の一つとされる海馬の萎縮は、たしかに幼少期の環境も影響していると考えられていますが、うつ病は、何か1つの原因で起こるわけではありません。遺伝や幼少期の環境、社会的な側面等、さまざまなことが折り重なって発症すると言われています。
遺伝についても、親や兄弟にうつ病の方がいると、そうでない人に比べて、うつ病を発症しやすいと報告されていますが、もちろん絶対発症するわけではありません。
家族が適切な行動をする
家族の中にうつ病の方がいると、上記で述べた課題の分離ができず、今までの自分の趣味や楽しみに割く時間を少なくし、 必要以上に過干渉になったりしてしまうケースがあります。これでは家族自身が気晴らしの行動をとれず、ストレスをかかえてしまうことになります。ストレスフルな家族は、うつ病の本人にとっても良くありません。
HighEEとは
EEとは、Expressed Emotionの頭文字をとった言葉で、日本語では感情表出と略します。家族の患者に対する態度や口調など、感情の表し方をさす言葉です。「病気だからと甘えている」「この子のために一家は大変だ」など否定的な感情表出もあれば、「病気で何もできなから、私がすべてしてあげる必要がある」などの感情が巻き込まれて、過度に過干になる場合も含みます。
このような状況をHighEE(高EE)と呼び、統合失調症の再発率を上げることで知られています。うつ病においても同じようなことが言えると思います。HighEEは、自身の精神状態が大きく関与していますので、適度な気晴らしはとても重要と言えます。
家族がうつ病になっても、見守る家族の方は、いつも通りの仕事をし、いつも通りの趣味を楽しむ、つまり、すでに述べた「課題を分離する」ことが大切です。
自助グループの参加や専門機関への相談
自助グループとは、当事者同士の語らいの場です。うつ病の当事者の場合もありますが、広い意味では「うつ病を家族にもつ方」同士もある意味、当事者と言えます。うつ病の家族会などは、まさにその典型です。
自助グループに集まる方は、同じ課題を持っていますので、自然と話に共感することが出来、また、自分が話すことで、不安や不満などの鬱憤が晴れ、心がすっきりすることもあります。精神分析の用語では、これをカタルシス効果と言います。
イライラしたら人に話すようにしているという人も多いと思いますが、1つ注意することがあります。それは、利害関係のない他人に話すということです。家族の中でそれを話すと、相手に自分のうっぷんを半分あげたことになるからです。
それを聴いた家族は、また別の家族に話し、さらに別の家族に話していきます。家族はそれほど人数が多くありませんので、結局は、うっぷんが形をかえて自分に戻ってきたり、うっぷんが、いつまでたっても家族の枠の外に出て行きません。
そのため、家族会等で話すことはとても有効です。1対1での会話でもないため、自分が話したうっぷんも分散しますし、うっぷんが容易に家族の枠の外に出て行ってくれます。