睡眠の病気
 

睡眠の病気

うつ病になると、睡眠の状態も変化することが知られています。詳細はのちに述べますが、基本的にうつ病では、睡眠が浅くてぐっすり眠れない状態が続きます。また、一般的な睡眠薬は、長く眠ることができるので、睡眠の量という観点からは効果的ですが、実は睡眠の質を落とす傾向があります。
 
その他、うつ病以外にも、睡眠特有の病気により、しっかり睡眠がとれない場合もあります。このページでは、 うつ病時の睡眠の様子をはじめ、うつ病以外の 睡眠の病気について、代表的なものを記載しています。

睡眠の病気 「 うつ病の睡眠障害 」

 
 

 うつ病の睡眠障害

 
うつ病の約9割になんらかの睡眠障害が現れます。一番代表的なものは、明け方に目が覚めてしまう早朝覚醒でしょう。その他にも、途中で目が覚めてしまう中途覚醒や、寝つきが悪いという入眠障害などがあります。基本的には不眠がちになるパターンが多いですが、眠りすぎる、過眠が現れる場合もあります。
 
 

 うつ病の睡眠は脳が休めていない

 
睡眠ポリグラフを用いた、うつ病患者の研究では、うつ病になると、レム睡眠の量が増えて、逆にノンレム睡眠の量が減ることがわかっています。通常、ノンレム睡眠の時には、脳の代謝は低下しますが、うつ病では十分に低下せず、若干働いてしまっています。
 
さらに、レム睡眠時には、扁桃体などが興奮しています。これらのことから、うつ病では睡眠が浅く、深い睡眠がとりにくくなるため、脳がしっかり休めていないと考えられています。なぜ、このような現象が起きるのかについては、さまざまな仮説がありますが、詳しいことはまだわかっていません。

 
 

 睡眠薬は浅い眠りを増やす

 
現在、一番使用される頻度が多いのは、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬です。これらの睡眠薬は、昔使われていた睡眠薬に比べ、安全性がかなり向上しています。さらに最近ではメラトニン受容体作動薬や、オレキシン受容体拮抗薬といった薬も開発され、少し効果は落ちるものの、依存性がない睡眠薬も出てきました。
 
また、市販されているものには、ヒスタミン系の薬剤があります。これは風邪薬や花粉症の薬で眠くなるという成分と同じです。不眠の症状によって、効いている時間の短いもの、長いもの、効果の強さなどを考えながら処方されます。
 
一般的に睡眠薬を使うとぐっすりと深い睡眠が得られるようなイメージがありますが、実際には薬をのまない通常の睡眠に比べ、その質は若干落ちる傾向にあります。
 
ベンゾジアゼピンやヒスタミンの薬等は、ノンレム睡眠の第2段階(浅い軽睡眠)の時間、を増やす働きがあるため、全体としては長く眠れるようになるものの、第3第4段階の睡眠の量は変わりません。
 
ただ、マイスリーという薬については、深い睡眠を増やすとの報告があります。いわゆる睡眠薬という部類の薬以外にも、四環系抗うつ薬や抗精神病薬等にも睡眠効果があるので、それらの薬を使用する場合もあります。

睡眠の病気 「 睡眠時無呼吸症候群 」

 
 
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に軌道がふさがってしまうタイプや、呼吸中枢の働きが阻害されているタイプ、または、その両方が合わさっているタイプなどに分類されます。睡眠中に呼吸が浅くなったり、止まってしまったりするため、睡眠は浅く質の悪いものになり、日中に眠気を覚えることが多くなります。
 
また、肺から取り込まれる酸素の量が少なくなるので、その酸素を最大限に活用しようと、酸素を運搬する役割のヘモグロビンが増加します。しかしヘモグロビンが増加しすぎると、高ヘモグロビン血症といって、血液の濃度が高まり、ドロドロの血液になり、血栓ができやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などの合併しやすいと言われています。
 
 

 診断基準

 
簡易睡眠検査、精密検査の結果、無呼吸低呼吸指数が1時間当たり5回以上であり、同時に、いびき、中途覚醒、日中の眠気、起床時の頭痛等の症状がある場合に診断されます。無呼吸低呼吸指数が5~15回は軽症、15~30回は中等症、30回以上は重症とされます。
 
睡眠中の無呼吸とは、呼吸が10秒以上止まる状態を指し、低呼吸とは、呼吸による換気が10秒以上50%以下に低下することで、睡眠中の1時間の無呼吸と低呼吸の回数の合計が無呼吸低呼吸指数となります。簡易検査は自宅で行うことも可能ですが、しっかりと調べるには最低1晩以上の検査入院が必要となります。
 
 

 発症しやすい人

 
軌道がふさがってしまうタイプは、肥満であり、のどの脂肪が多い人に多いと言われていますが、やせている人でも、扁桃腺が肥大している人や顎の小さな人に起こりやすいと言われています。アメリカ、スタンフォード大学のモーリスオハヨン教授の調査では、睡眠時無呼吸症候群の17.6%にうつ病を併発していたという報告があります。
 
 

 治療法

 
肥満が原因であれば減量をしたり、それ以外では、専用のマウスピースの装着や、シーパップという睡眠マスク(空気が送られ軌道の閉塞を防ぐ装置)、外科的手術、生活習慣の改善等があります。
 
 
 

睡眠の病気 「 概日リズム睡眠障害 」

 
 
睡眠の中身自体には特別異常はないものの、入眠と覚醒の時間が適切ではないものを言い、深夜3時以降などに入眠し昼過ぎになって覚醒する睡眠相後退症候群や、その逆の19時頃に寝てしまい3時頃には目覚めてしまう睡眠相前進症候などがあります。また、外界の刺激を受けず、体内時計のみで入眠と覚醒をしている場合は、非24時間概日リズム睡眠障害と言い、この場合は入眠と覚醒が毎日少しずつ遅れ昼夜逆転が起こります。
 
いずれにしても、本来寝るべき夜に不眠を呈しやすく、日中は過眠、集中力低下、全身倦怠感などの症状が現れ、遅刻などにより社会生活に支障をきたします。
 
 

 診断基準(1~5を満たす)

  1. 要求される睡眠・起床時間に関して、主たる睡眠相が有意に後退し、慢性的に要求される時刻に入眠および覚醒が困難である。
  2. 症候は少なくとも3カ月間は持続する。
  3. 自身の自由なスケジュールを選ぶことが許された時には、彼らの睡眠の質および持続は年齢相応に改善し、遅れた位相で24時間の睡眠・覚醒パターンを保つ。
  4. 最低でも7日間の睡眠日誌と、可能な限りアクティグラフィのモニタリングによって、日常的な睡眠のタイミングの遅れが示される。このモニタリングには、平日と休日の双方が含まれる必要がある。
  5. その睡眠の乱れは、他に存在する睡眠障害、身体あるいは神経学的疾患、精神疾患、薬物使用、あるいは物質使用障害で説明できない。

 

 発症しやすい人

 
人の体内時計は24時間よりも長いため、毎日少しずつ時間が後退していく傾向がありますが、朝日を浴びたり、一定の時間で社会生活を送るなどの刺激によって、そのズレを修正しています。
よって、その刺激がないような生活を送っている人に発症しやすいと言われています。
 
 

 治療法

 
光照射療法により体内時計をリセットする治療法が最も効果的と言われています。その他、メラトニン、ビタミンB12、中枢性興奮薬などによる治療法もあります。また、睡眠に関する表を毎日つけることも、自分の睡眠の質を客観的に見直せるため、治療的な効果があると言われています。
 
 
 

睡眠の病気 「 ムズムズ脚症候群 」

 
 
脚に虫が這うような感覚や、熱感、冷感、痙攣、だるさなど、不快な症状で、睡眠が取れなくなる病気です。多くは夜におきやすいですが、日中にも起きる場合があります。生命活動に不必要な信号をブロックする働きのある、A11という神経系の機能が、何らかの理由で阻害されて発症するという仮説が有力ですが、詳しいことは良くわかっていません。
 
 

 診断基準

 

  1. 脚を動かしたいという強い欲求が不快な下肢の異常感覚に伴って、あるいは異常感覚が原因となって起こる(下肢の動かしたくなるような異常感覚の存在)
  2. その異常感覚が、安静にして、静かに横になったり座ったりしている状態で始まる、あるいは増悪する(安静による悪化)
  3. その異常感覚は運動によって改善する(運動による改善)
  4. その異常感覚が日中より夕方・夜間に増悪する(日内リズムの存在)

 

 なりやすい人

 
欧米での有病率は5~10%であり、男性より女性の方が約2倍かかりやすい傾向にあります。また、高齢者、妊婦、貧血、糖尿病、リウマチ、パーキンソン病の人も合併しやすいと言われます。
 
 

 治療法

 
鉄剤、ドパミン作動薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、オピオイド系薬剤の投与を行ったりする他、自分でできる対策として、入浴やマッサージ、ストレッチ、シップやカイロなどの利用などがあります。また、カフェインやアルコール、ニコチンといった刺激物は症状を悪化させる傾向にあるので、できるだけそれらの摂取をさけるのが必要です。
 
その他、抗うつ剤、抗精神病薬、抗ヒスタミン剤、リチウムなどは、症状を誘発する恐れがあるため、使用の際には注意が必要とされています。

上記に挙げた睡眠の病気は代表的なものであり、これ以外にもたくさんあります。最近では睡眠外来を標榜している医療機関も増えてきていますので、気になる症状がある場合には、早めに受診することをお勧めします。