
脳の炎症
炎症と言うと、主に病気や怪我をした時に、皮膚や筋肉に起こるイメージですが、体のみならず、実は脳の炎症も起きており、それがうつ病の原因であるとする説です。
私たちは風邪をひいたとき、発熱や咳などの炎症を起しますが、むしろその炎症が風邪を治してくれます。これは急性炎症ですが、いつまでもだらだらと続く慢性炎症が脳に起き、それがうつ病の原因と言う説です。慢性疲労症候群等、別の疾患の原因ともされることがあります。
最近では、他の精神疾患についても、脳の炎症が疑われており、抗精神病薬の増強療法として抗炎症剤を利用することもあります。また、この説に基づくうつ病の新薬の開発も期待されています。
脳の炎症
脳の炎症の概要
うつ病は、脳の慢性炎症が原因だとする仮説です。特に幼少期の心的外傷がある人、対人関係での慢性的なストレスを感じている人、内臓脂肪の多い人に、より顕著に脳の炎症が起こりやすいと言われています。
ストレスが脳の視床下部を刺激すると、サイトカイン(炎症を起こさせる物質)の働きを強めて、炎症を発生させますが、それに対してコルチゾールなどのストレスホルモンや副交感神経からなる迷走神経が、炎症を抑える働きをします。しかし炎症のほうが強いときは抑えきれずに、慢性的な炎症が続いてしまうことになります。
サイトカインは炎症を起こす以外にも、活動する意欲を低下させたり、サイトカイン等が分泌する酵素によって、セロトニン等のアミノ酸を壊す働きが認められており、それらによってうつ病になるとされています。
また、いつまでも炎症が静まらないと、炎症を鎮めようとするコルチゾールが過剰に分泌されますが、コルチゾールには活性酸素などを発生させることがわかっており、それが海馬や扁桃体を死なせてしまう働きをして、神経の新生も妨げてしまいます。
活性酸素は本来、病原菌から身を守ってくれるものですが、攻撃力が強いので必要以上に出続けてしまうと、自分の体を傷つける(酸化)原因になります。これが胃に起これば胃に穴が開く原因となるし、脳に起これば、脳細胞が死んでしまう原因となるのです。
抗うつ剤は脳の炎症にも効く?
抗うつ剤には、神経伝達物質の量を正常な状態にしたり、神経栄養因子の産生を助けることで、神経新生を促したりするだけでなく、脳の慢性炎症と言う観点から見ても、脳の炎症を抑える効果をするものもあります。
実際、抗うつ薬のSSRIにも炎症を抑える働きをするものがあったり、抗生剤のミノマイシンに抗うつ効果があるとする報告もあり、新たに抗炎症の視点での新薬の開発も進められています。
脳の炎症を防ぐ方法
1.内臓脂肪を減らす
サイトカイン等の炎症を起こさせる物質は内臓脂肪が多いと、より生産される傾向があるため、肥満は慢性炎症の原因と言えます。そのため、肥満傾向の方は運動やカロリーの抑えた食事等で、安全に減量する必要があります。
2.ストレスを減らす
体の不調は脳にも伝わり、うつ状態を引き起こす可能性を高めることもわかっています。うつ病もまた体に伝わり、内科的な病気の発症率を高めます。そういう意味では、心身共にストレスなく健康的に過ごすことが大切です。
3.慢性炎症を起す病気のコントロール
炎症と言うのは体のどこかで起こると、それが他の部位にも影響を及ぼします。どこかで起きている炎症が、信号となって体中をめぐるのです。それはやがて脳にも伝わります。そのため、歯肉炎、糖尿病、喘息、皮膚炎、アレルギー疾患、リウマチ等の治療を行い、炎症をコントロールすることが大切です。
4.栄養管理を行う
食事に関してはマーガリンやヒマワリ油などのオメガ6脂肪酸の過剰摂取は炎症を促進する悪玉ホルモンを増やすので、摂取量には注意が必要です。青魚などオメガ3を含む食品を積極的にとるようにしましょう。
その他、ビタミンB6 、C、E、カリウム、マグネシウム等にも抗炎症作用があります。セロリ、ブロッコリー、しょうが、チンゲンサイ、ブルーベリー等は高い抗炎症作用が期待できます。
物事に対してのプラス思考や、バランスの取れた食事、適度な運動等は、脳の炎症を起こさせるサイトカインや、活性酸素を発生させるコルチゾールの分泌を抑えるため、脳の炎症を防ぐ効果があると言えます。それはうつ病の予防以外にも、さまざまな病気の予防になります。